2017-02-21

肉よさらば





朝8時の広場。カルナヴァル(謝肉祭)出動前の山車。

ニースの山車は、毎年「○○の王様」という風にテーマが決まっていて、職人たちがさまざまな人形をこしらえては腕を競い合う。今年のテーマは「エネルギーの王様」。この山車、遠くから眺めていると「なにがすごいんだか全然わからん…」って感じなんだけど、近くで見るとけっこう繊細で悪くない。

数週間つづく祭の最終日には、この王様たちを舟に乗せて海へ流し、花火を上げて火葬にする。

ところでカルナヴァルとは一体なんなのか?というと、四旬節直前に催される民衆的祝祭のこと。ならば四旬節とは?というと、これはキリストの復活祭に備えて「肉断ち」その他の禁欲を守らなければならない期間のことで、この物忌みが復活祭当日までなんと40日間もつづくんです。知ってました? わたしはこの日記を書くのにさっきウィキに教えてもらったばかり。知りたてほやほやです。

つまり「四旬節に入ると復活祭までシケた毎日になるから、その前に駆け込みで騒いでおこう!」ってのがカルナヴァルといふもの。たぶん。

2017-02-18

バス停を抱きかかえ





すごく天気が良いので、外でおひるごはんを食べることにする。バス停でバスを待っていると、かもめがいつものようにキョエーキョエーとあそんでいる。

のどか、のどか。

君の名がつくバス停を抱きかかえ事情聴取を受ける七月
澁谷聰介

ふと、こんな歌が脳裏をよぎる(夏じゃないけど)。澁谷聰介の作品は、ほとんど知らない。ただ上の歌と、

ジョン・レノン似の人妻にキスすると胴上げされる条例採択

のふたつが大好きで、しょっちゅう思い出す。とてもうきうきした音楽が鳴っているし、この世界とクロスする異次元感覚も素敵だ。

2017-02-17

その人の本棚・後編。



居留守文庫に置かせてもらっている本の書影。つづき。


Haïku des quatre éléments(俳句、その四元素) / Jacques Poullaouec
Pourquoi les non japonais écrivent-t ils des Haïkus?(非日本人が俳句を書くのはなぜか?) / Alain Kervern
Haïku du chat(猫ハイク) / Jacques Poullaouec
Haikus du temps qui passe (俳画集アンソロジー)
Haïkus des quatre saisons(俳画集アンソロジー)
【みみず・ぶっくすBOOKS】第5回 ロジェ・ミュニエ『北斎画でめぐる四季の俳句』
Miroirs de la nature(俳画集アンソロジー)
【みみず・ぶっくすBOOKS】第11回 『自然の鏡/俳句拾遺』
Zombie Haiku: Good Poetry For Your...Brains / Ryan Mecum
【みみず・ぶっくすBOOKS】第8回 ライアン・マコム『ゾンビ俳句』
Hillary Clinton Haiku / Vera G. Shaw
【みみず・ぶっくすBOOKS】第9回 ヴェラ・G・ショー『ヒラリー・クリントン俳句』
Clefs magiques : Haïkus / Jean-Léonard de Meuron
【みみず・ぶっくすBOOKS】第12回 ジャン=レオナール・ド・ムロン & フレデリック・ル・ルー・デルペッシュ『魔法の鍵』
● Haïku, mon nounours / Gilles Brulet
【みみず・ぶっくすBOOKS】第14回 ジル・ブリュレ&宮本千安紀『はいくま』

         

2017-02-16

その人の本棚・中編



そんな性格だから、もちろん自分の本棚を見られるのも恥ずかしい。にもかかわらずこういった経緯から、居留守文庫という本屋さんの一角に「箱馬本箱」一個分のプライベート・ショップをオープンしてしまった(この本箱、特に一個限定ということはなく、五個くらいまで大丈夫だそう。上限は200冊程度)。

日本語の本も10冊ほどセレクト。表紙から内容を透視するに(わたしは読まずに語る学派、透視分化会所属なので、大抵の本は雰囲気を味わうだけ)、文学畑の人よりも演劇をやっている人向きのセレクションかもしれない。



【現代の批評叢書 全10巻】
渡辺一民 神話への反抗 現代の批評叢書 1 思潮社 1968(昭和43) 初版 ¥800
大岡信 蕩児の家系 : 日本現代詩の歩み 現代の批評叢書 2 思潮社 1969(昭和44) 初版 ¥800
渡辺武信 詩的快楽の行方 : 戦後詩の状況とその詩人たち 現代の批評叢書 3 思潮社 1969(昭和44) 初版 ¥800
粟津則雄 詩の空間 : 粟津則雄文学論集 1957-1966 現代の批評叢書 4 思潮社 1969(昭和44) 初版 ¥800
粟津則雄 詩人たち : 粟津則雄文学論集 1966-1967 現代の批評叢書 5 思潮社 1969(昭和44) 初版 ¥800
粟津則雄 詩の意味 : 粟津則雄文学論集 1967-1969 現代の批評叢書 6 思潮社 1970(昭和45) 初版 ¥800
遠丸立 死者もまた夢をみる : 私のなかのドストエフスキイ・私のなかの同時代作家たち 現代の批評叢書 7 思潮社 1970(昭和45) 初版 ¥800
渋沢孝輔 詩の根源を求めて : ボードレール・ランボー・朔太郎その他 現代の批評叢書 8 思潮社 1970(昭和45) 初版 ¥800
寺山修司 暴力としての言語 : 詩論まで時速100キロ 現代の批評叢書 9 思潮社 1970(昭和45) 初版 ¥800
● 北川透 幻野の渇き : 詩とコンミューン 現代の批評叢書 10 思潮社 1970(昭和45) 初版 ¥800

         

2017-02-15

その人の本棚・前編



「本棚を見れば、その人がどんな人なのかわかる」という常套句があるけれど、人の家にいって、その人の本棚を見る人って、実際のところあまり存在しない気がする。だって、人の本棚を見つめるためには、ある対象に興味を示しているこの私をその人に見せなければならないわけで、要するにその人から「あ。この人はこういう本に興味をもつんだ…」と見られてしまうわけだ。

うーん。

はずかしい。

なので、だいたいじぶんは、見たいな、と思ったときでも(ごくまれに思う)、いたってぼんやりしたふりをしている。見ることのブーメランを考えただけで、胸がドキドキしてくるから。

2017-02-14

人生。




悪の名詞化この世まばゆいチューリップ  田島健一

2017-02-13

笑う犬





遊歩道から砂浜への階段をおりた瞬間、むかし泳ぐのが大好きな犬が、そのカラダのほとんどを海の下にもぐらせていても丸わかりな浮かれ具合で沖へ沖へ泳いでいた  飼い主に置いてきぼりをくらわないか気になるのか、つねに首だけはこちらに向けながら  ときのことを思い出した。

犬は、首を曲げている方向に曲がってしまう。それにはっと気づいてまた沖を目指すのだけれど、やはり砂浜の飼い主が気になるようで、すぐにまた曲がりはじめる。それで、いつまでも海中をくるくる回りながら、そのありさまに笑っているのだった。犬が。

春てぶくろにおぼつかなくも棲む海か  小津夜景

2017-02-12

早春と花




2月に入ると、市場から道端まで、至るところでミモザと黄水仙が売られはじめる。

花を育てているのは、その昔イタリアのなんとかいう村から移住してきた人々。この町の山の方に固まって住んでいるせいか、いまでもそのエリアには少なからず自治集落的な雰囲気が残っている。

彼らは毎日山を降りてきて市場で花を商うのだが、ミモザと黄水仙だけはどういうわけか他の業種の人  八百屋、香辛料屋、蜂蜜屋、石鹸屋、缶詰屋、香水屋、油屋などなど  も店先で売っている。ふしぎ。

一般家庭の人も、自分の家に咲いたのをちょっと手折って人に配ったり、教会の前なんかで売ったりしている。このふたつの花は、他の植物とステータスがぜんぜん違うみたいだ。

ミモザ咲き海かけて靄(もや)黄なりけり  水原秋桜子

2017-02-11

運命に呼ばれる


先日少し書いた心意六合拳は、中国河南省の回族に伝わる武術。で、「最強」としてそれに並び称される八極拳はというと、こちらもまた河北省滄州の回族が起源なんですね。これ、武術と縁のない人にはかなり新鮮に感じられる話のようです。

もともと滄州は武術の聖地として古くから有名で、早くは『漢書』に滄州人の武術三昧の記述が出てきますし、明・清時代には武挙(科挙の武官ヴァーション)の合格者を1937名輩出しています。ちなみに『水滸伝』の冒頭で林冲が島流しになるのもこの地。武侠小説ゆえ、とうぜんそのくらいのプロットでないと話が始まらない、というわけ。

ところで学生の頃、通っていた教室のつてで八極拳発祥の地である滄州の孟村にゆくチャンスがあったのですが、にもかかわらず研修費をつくれずに断念したことがありました。まさか両親に「八極拳の修行をしたいのでお金を下さい」とは言えないし。で、その話を先日ある人にしたら「あなたの態度は典型的な『運命に呼ばれていない』ってやつだね。人が運命に呼ばれるときは、金の問題は言うにおよばず、法を犯すことすら恐れないで、すべてを乗り越えてそこへいっちゃうんだから」と言われて、たしかに自分の周囲を見回してもそれは本当にそうで、ああ、ほんとうにそうだな、そうなんだよなって思うことしきり。

ぶつかつて蝶が生まれる土俵かな  小倉喜郎

2017-02-10

書家っぽい絵描き。




『ぞうのババール』の絵が好きで、たまに買ってはクッキーみたいに配ってしまう。

ジャン・ド・ブリュノフの絵はとても気まま。

気ままといっても全体の構造はある。ただ描線の動きが構造に束縛されず、またそれに寄与しようとした気配がない。つまり彼の描線は、なんのためでもなく自由。

そこが好き。

じっと眺めていると、良寛を思い出すことも。その構えない感じもそうだし、あと造形がフィギュール(形)ではなくリーニュ(線)から成っているように思われることもあって、書を味わう気分になるらしい。



2017-02-09

チャック・ベリーと心意六合拳



武術の練習は、浮き浮きした気分でいた方が身体の反応が良くなるので、そういった映像や音楽をかける。これまで一番多く見た動画はダントツでチャック・ベリー。この人の足腰はすばらしい。

と、こう書くと『拳児』の愛読者は百回頷いても頷き足りないはず。だってこの人のダック・ウォークは中国武術で最も威力がある(俗っぽくいえば「最強」の)二大拳法のうちの片方、心意六合拳の鶏行歩にそっくりだし。上のレコードなどは、微笑と手つきが如来の域に達しているし。




チャック・ベリーの歩行術は右足の膝を曲げ、左足を伸ばして、とんとんと前に進む。あるいは両膝を曲げ、足を地面につけたまま、すり足で前に進む。そしてあの内股。あれは身体の力をたくわえる蓄勁と呼ばれるポーズで、次の動作に起爆力を与える。原理が拳法とまったく同じだ。

この動作は子どもの頃にして大人に受けたものをステージで再現したらしいのだけど、集団的産物なのかそれとも個人的な思いつきなのかは調べてもわからなかった。ロック・ミュージシャンの生い立ちに詳しい方がいたらどうか教えてください。

2017-02-08

春の虫





さいきん家のなかでちらほら虫を見るので、ん、春だな、と思う。

虫は、落ちついた心でむきあうと素敵。ただ本気でかかずりあうと一生を棒に振りそうなので、彼らのことはほどよく意識の外において生活するようにしている。で、実際そうできるということは、わたしは虫を愛する才能に欠けているのだ。

わたしの義理の母には虫愛づる君の素質があり、ごきぶりをガラスの容器に入れてデッサンしたりする。以前そのスケッチブックを見せてもらったときは、ほんとに御器をおかぶり遊ばされたような立派なあたまでいらっしゃった(じぶんの大きな勘違いに気づいた今でも、そう思う)。

背もたれとあらば凭れる日うらうら  長嶋有

2017-02-06

ラジカル・シンプリシティ。





ぽっかりと、頭に穴があいているところに親しみをおぼえる。

水を入れると、底から水が滲みでてしまうダメさも愛おしい。

乾燥させた花を、頭に挿してみたこともあるのだが、なにを挿しても間の抜けたふんいきになる。じぶんが花瓶であるということに気づいていないから。

わたしは花瓶ではないのですが、やはり頭に穴があいているようで、立春をすぎるとその穴から、ふん、ふん、と浮き足立った歌がきこえてくる。ハミングっぽい、シンプルな歌ばかりが。

歌うとは、無駄なものをとりのぞいてゆくこと。鳥のように。

冬の夢のおどろきはつるあけぼのに春のうつつのまづ見ゆるかな  九条良経

2017-02-04

はいくまちゃん。





本日の「週刊俳句」に、フランスの俳句事情を紹介する【みみず・ぶっくすBOOKS】の第14回を寄稿しました。『はいくま』という幼児向け絵本について書いています。

記事で触れ忘れた話をひとつ。『はいくま』のイラストを担当されている宮本千安紀さんはご自作のweb shopをなさっている模様(こちら)。とても可愛らしいフランス語の絵本、雑貨、版画などを購入することができます。

そして上の写真は【みみず・ぶっくすBOOKS】でこれまでに紹介した本などを、なんとなく並べたのでした(『フラワーズ・カンフー』を数冊混入させつつ)。

2017-02-02

丸さに近づく





近所にとても可愛らしいおばあさんがいる。

おばあさんは少し惚けていて、丸いものに異常なこだわりがある。散歩の途中に丸いものを見つけるたびに足を止め、じっとその丸さを観察するのだ。あるときは雑貨屋の前に山積みになっていたフライパンの前に佇んで、とびきり大きいフライパンを、ゆっくりとなんども撫でていた。丸い物体を見ると、どうやら生き物を想うらしい。

おばあさんは教会の天井も好きだ。これはわたしもわかる。教会の天井って、なんだか吸い込まれてしまいそうな。手をのばしたくなるような。