2024-03-28

ファンファーレを胸に秘めて





前の日記に書いた冬泉さんの誕生日祝い連句、羊我堂さんが画像にしてくださいました。燕がかわいい。そしてみんな相変わらず芸達者。わたしは根っからの地味な性格なので、この華についていくのがたいへん…。

毎晩、布団をかぶって「ああ。明日の朝ごはんがたのしみだなあ」とわくわくしながら眠りにつく。今朝の主食ははじめてのパン屋さんのパン・ド・カンパーニュで、手造りの石窯で焼いたという味はまあまあ。まあまあ、はわたしの中ではかなりいいほう。午前中は水野千依『イメージの地層』を読みながら原稿書き。昼は水餃子をつくる。皮がぶ厚くてごろごろしていた。午後は4キロ走ってヨガをして服を着替えて電車にのる。向かい側に腰掛けている9歳くらいの少女が一心不乱になにか読んでいた。そっと盗み見るとアガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』。おおっ。思わず心の中で、

てれれって
とろろっと
ぷるるっぷ
たったー

と盛大なファンファーレを少女に捧げ贈る。ほわんほわんと反響するファンファーレを胸に感じながら電車を降りて、図書館で原稿の続きを書く。夜は写真の整理をする。4年前にはじめたインスタグラム、根気がなくて上手く活用できていなかったのだけれど、これから週2回は投稿したいと思っている。

2024-03-21

七曜の断片





月曜日は山本貴光さんの新刊『文学のエコロジー』を読む。作品をするすると解析していく手つきが爽やか。「鮮やか」ではなく「爽やか」と書いたのは、文学批評にまつわる特殊な概念や装置がとても控えめにしか用いられていないせいか、語と語のどの接合部分にも胡乱な(投機的ないし山師的な)摩擦熱が発生していなかったから。単語間の配列が端正で読みながら清々しい気分になる。でもって火曜日はリチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』を読んだのだけれど、こちらは胡乱上等、怪しさ満点、暴飲暴食もかくやとばかりの荒ぶった言語運動。水曜日は春物の上着と靴を探しに街へ。上着はゴアテックス素材のトレンチコート。靴はカルフのMESTARI CONTROL。配色はSILVER LINING/TRUE NAVYにした。ついでにツヴィリングの包丁も購入した。高くてびっくりしたけれど思い切って買った。包丁を買ったのは生まれて初めて。大学入学の折と結婚の折に母が揃えてくれたヘンケルスと有次の包丁をいままで使い続けていたのだ。

先日は冬泉さんのお誕生日だったらしく、「いつもの連衆で表合でも巻いて贈りませんか」と声をかけてもらう。わたしは花の座の担当。

まれびとは全部伴天連花の茶屋

「全部」って表現どうなのよ、とちょっと思うけれど、わたしは音からつくるのでしばしばこういうことが起こる。中七は賑やかな和音風にしたかったらしい。

『すばる』4月号はティータイム特集。わたしもそれに便乗してキャロブ(いなごまめ)からコーヒーをつくる話を書いた。キャロブのコーヒーって自分には全く馴染みがないのだけど、年末にギリシャを旅した折、かの地の食材を眺めていたら「Carofee」という商品名で普通に販売されていた。ギリシャ人にとってのキャロブはフランス人にとってのシコレみたいなものなのかしら。以下の写真はル・コルビュジエの休暇小屋に立っているキャロブの木と拾った莢。

2024-03-09

『ロゴスと巻貝』刊行記念歌仙「初凪の巻」



『ロゴスと巻貝』刊行記念歌仙「初凪の巻」が満尾しました。わたしも挙句だけ参加させてもらっています。


『ロゴスと巻貝』に登場するモチーフが主旋律。そこへ句集『花と夜盗』をフレーバーとして使っていただいたようで。ありがとうございます。しかしそれにしてもみなさん上手い……いや本当にこれ上手すぎやしませんか? やりたい放題なのに独りよがりじゃない。次の連衆がうちやすいボールをちゃんと上げていく。博愛と連帯を感じさせるという意味でとても美しい歌仙です。わたしの挙句は神祇釈教も用意したのですが、 冬泉さん曰く「りゑさんの「巫山戯」がその役を果していると解しましょう」とのことで紙風船の句が採られました。

ガザを知らない二十四時間 冬泉
×○(ミッフィーのくちびるドラえもんのはな) 羊我堂
奢霸都館開店行列冷まじく りゑ
許されぬ恋だとばかり思ひ込み 岳史
喜喜昔圖古茶壺(ききとしてむかしゑがいたふるちやつぼ) 未来
エピタフのtu fui ego eris すり減つて 季何
確定申告ボイコットすれば花 胃齋

2024-03-08

強い夢、あるいは何かに向かおうとする心






嵐の去った海には石や木が散らかっている。岩の上で釣りをする家族、椅子に座ってお茶する女たち、家づくりをする少年たち、皆それぞれに遊ぶ。


誰かが積んだ石の塔。


別の場所にも家をつくる少年がいた。


原始と抽象とのあわいに心が立ち現れる。強い夢に似た、何かに向かおうとする心が。

2024-03-03

聖土曜日を飾る寄せ書き





土曜日は春の挙句をつくった。以下はその提出句。歌仙全体は日を改めて。

朧月夜に用を足す犬
聖土曜日を飾る寄せ書き
象に望みて甘茶一服
紙風船のまろぶ坂道
ごろりと臥して吹くシャボン玉

日曜日は朝からいかんともしがたい嵐。鎧戸を下ろし、暗い中でじっとしている。昼はカレーを作るが、食後の甘いものがなにもなく、外にも買いに出られない。なにもない状態でコーヒーを飲むのが辛いとつぶやくと、夫がキャラメルコーンフレークを作ってくれる。

2024-02-24

カルナヴァルの広場を抜けて





ル・アーヴルの知り合いが「ぼくの通ってた高校、サルトルが教えてたんだよ」と言うので興味をそそられ、Lycée François 1erの位置を調べたら、なんと街のど真ん中にあるショッピングモールの隣だった。こんな現実感(?)のある場所だったのか。ル・アーヴルに住んでいた頃は「いま『嘔吐』を読み返したらとんでもなく面白いんじゃないか?」としょっちゅう想像したものだけれど、知り合いの言葉が契機となって本日とうとう本屋さんで『嘔吐』を購入するに至った次第。ついでにカミュも買い直した。きれいな本で読みたくて。

わたしはカミュの文体が好きだ。何度読み返しても、まるで初めて出会ったかのような瑞々しい衝撃を受ける。心臓を鷲づかみにされる。読んでいる間中ずっと胸の痛みが止まない、そういう類の感動だ。

2024-02-18

つられて走る





日本経済新聞の17日付朝刊「交遊抄」に寄稿しました。ウェブ版はこちら。文中で触れた入交佐妃さんによる写真はこれのこと。神保町の珈琲店「さぼうる」でお茶していたとき、パシャっと一発で撮ってくれました。

高橋睦郎さんの新刊『花や鳥』の栞を書きました。栞の一般的位置付けというのが定かではないまま普通の感想を書いてしまったのですが、いまふと「あ。栞って出版おめでとうの挨拶なのかも」と思い至りました。たぶんこれ合ってますよね。

今日は朝8時半から海辺を散歩。空気が最高だった。たくさんの人がジョギングしてて、ほんと大勢走ってて、まるでジョギング星人たちが住む異星に迷い込んだ感じ。ぶらぶらしているうちになんだか郷に従った方がいいような気分になってきて、あたしも20分くらい走ってしまった。

2024-02-12

海辺の思考





きっとうろうろしてるにちがいないと。うろうろしながら書いているのでしょうと。わたしの文章には、そんなうろうろした印象があるらしい。
「うろうろしてますね」
と言われた。きのうも。
「うろうろしてますか?」
ときかれても、うまくこたえられない。
「うろうろってなんだろう……」
そうおもいながら、いま、海をみている。